稲見一良 1931年大阪生まれ。1991年『ダックコール』で第4回山本周五郎賞受賞。1994年2月惜しまれつつ他界。

 ガンと戦い、入退院を繰り返す。その間に書きためられた珠玉の作品たち。気骨溢れた作品群は今も心に残る。
 どれもいいけど、『ダック・コール』『セント・メリーのリボン』『花見川のハック』この三冊がとくに良いかな? これから読む方はこのへんから攻めてみたら?


ダブルオー・バック 短編集 大陸書房 1989.05.18 新潮文庫 1992.01.25
ソー・ザップ 長編 大陸書房 1990.01.20 角川文庫 1993.06.10
ダック・コール 短編集 早川書房 1991.02.15 ハヤカワ文庫 1994.02.28
セント・メリーのリボン 短編集 新潮社 1993.06.20 新潮文庫 1996.02.01
猟犬探偵 連作 新潮社 1994.05.20 新潮文庫 1997.07.01
男は旗 長編 新潮社 1994.02.15 新潮文庫 1996.12.01
ガン・ロッカーのある書斎 随筆 角川書店 1994.10.11    
花見川のハック 短編集 角川書店 1994.07.05    
帖の紐 (4.0) 随筆 中央公論社 1996.09.20    

本

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帖の紐 (たとうのひも)  稲見一良
中央公論社 1996年9月20日 発行
 これは、作者が死の直前まで産経新聞に連載していたエッセイ64篇をまとめたものである。
 人生というか生きざまが、そのまま小説になってしまう人っているんだね。このエッセイ集を読むと、エッセイと言うよりも稲見一良という一人の人物の半生を描いた一篇の小説を読み終えたような感じさえしてしまう。やがて訪れる死を自覚し、真正面からそれを受けとめる厳粛さがある。やっぱりハードボイルド作家というのは、はらわたからハードボイルドしていないと書けないのだ。

 全編に溢れかえる男のダンディズム。子を思う親の気持ち、妻を思う夫の気持ち、病魔と闘いながらも、ふと思いやるその優しさ。若い頃は、家族を絶対に守ると言いきった父親であった。だからか、病後はその家族に介護されつつ甘えつつも、どこかに自分に対する歯がゆさがあったりする。それらがない交ぜになってひしひしと伝わってくる。「娘と自転車」「丈夫がいい」を読んでいて、不覚にも電車の中で涙がこぼれた。

 発病から死まで10年。その間13回もの入院を繰り返した稲見さん。その間に作家デビューし、名作『ダック・コール』で山本賞を受賞する。神は死の手向けに大輪の花を咲かせたのか。もっと稲見さんの小説が読みたかった。

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