浅田次郎 1951年東京生まれ 1997年『鉄道員』で第117回直木賞受賞

 クサイと言う人も結構いる。これは事実。『鉄道員(ぽっぽや)』以降の作品では、これでもかこれでもかと読み手を泣かせにかかる。読み手はその辺は充分承知しているから構えている。これは読書という真剣勝負なのだ。「絶対泣かないぞ!」誓って読み始める。が、結果は……。でもねぇ、正直言えばこの辺はあんまり好みじゃありません。『蒼穹の昴』で直木賞を取って欲しかった。
 浅田次郎未経験で読んでみたいという方は、プリズンホテルシリーズあたりからがオススメ。ユーモア・ピカレスクから、一大歴史絵巻まで幅広いので一冊読んで気に入らなくてももう一冊読んでみた方がいいよ。 


プリズンホテル 長編 徳間書店 1993.02.28 集英社文庫 2001.06.20 
極道界 随筆? イースト文庫 1993.06.30    
日輪の遺産 (3.5) 長編 青樹社 1993.08.30 講談社文庫
徳間文庫
1997.07.15
2000.04.15
初等ヤクザの犯罪学教室 随筆? KKベストセラーズ 1993.12.25 幻冬舎アウトロー文庫 1998.04.25
地下鉄(メトロ)に乗って 長編 徳間書店 1994.03.31 徳間文庫
講談社文庫
1997.06.15
1999.12.15
プリズンホテル・秋 長編 徳間書店 1994.08.31 集英社文庫 2001.07.25
極道放浪記1「殺られてたまるか」 随筆? KKベストセラーズ 1994.09.04 幻冬舎アウトロー文庫 1998.08.25
極道放浪記2「相棒への鎮魂歌」 随筆? KKベストセラーズ 1995.04.20 幻冬舎アウトロー文庫 1998.10.25
プリズンホテル・冬 長編 徳間書店 1995.09.30 集英社文庫 2001.06.25
きんぴか
 三人の悪党 きんぴか1
 血まみれのマリア きんぴか2
 真夜中の喝采 きんぴか3
連作 光文社 1996.02.05
光文社文庫
光文社文庫
光文社文庫

1999.07.15
1999.08.20
1999.09.20
蒼穹の昴 上・下 長編 講談社 1996.04.18    
勇気凛凛ルリの色 随筆 講談社 1996.07.10 講談社文庫 1999.07.15
天切り松 闇がたり 連作 徳間書店 1996.07.31    
勇気凛凛ルリの色2「四十肩と恋愛」 随筆 講談社 1997.01.20 講談社文庫 2000.03.15
プリズンホテル・春 長編 徳間書店 1997.01.31 集英社文庫 2001.11.25
勝負の極意 講演他 幻冬舎アウトロー文庫 1997.04.25     
鉄道員(ぽっぽや) 短編集 集英社 1997.04.30 集英社文庫 2000.03.25
活動寫眞の女 (3.0) 長編 双葉社 1997.07.25 双葉文庫 2000.05.20
月のしずく 短編集 文藝春秋 1997.10.30 文春文庫 2000.08.10
珍妃の井戸 長編 講談社 1997.12.10    
福音について〜勇気凛凛ルリの色 随筆 講談社 1998.02.25 講談社文庫  2001.01.01
見知らぬ妻へ 短編集 光文社 1998.05.30 光文社文庫 2001.02.01
霞町物語 短編集 講談社 1998.08.17 講談社文庫 2000.11.15
天国までの百マイル (3.0) 長編 朝日新聞社 1998.12.01 朝日文庫 2000.11.01
競馬どんぶり 随筆? マガジン・マガジン 1999.01.10 幻冬舎アウトロー文庫 2000.12.01
満天の星〜勇気凛凛ルリの色 (?) 随筆 講談社 1999.01.25 講談社文庫 2001.08.15
天切り松闇がたり 第一巻 闇の花道 連作 集英社 1999.09.20 集英社文庫 2002.06.25
天切り松闇がたり 第二巻 残侠 (3.5) 連作 集英社 1999.09.20 集英社文庫 2002.11.25
シェエラザード 上・下 (2.5) 長編 講談社 1999.12.06 講談社文庫 2002.12.25
壬生義士伝 上・下 長編 文藝春秋 2000.04.30 文春文庫 2002.09.10
薔薇盗人 短編集 新潮社 2000.08.25    
絶対幸福主義 随筆 徳間書店 2000.10.31    
歩兵の本領 短編集 講談社 2001.04.01    
王妃の館 上・下 長編 集英社 2001.07.30      
民子 写真本 角川書店 2001.09.30    
オー・マイ・ガァッ! 長編 毎日新聞 2001.10.25    
待つ女 作家読本 朝日新聞 2002.02.02    
天切り松闇がたり 第二巻 初湯千両 連作 集英社 2002.02.28      
沙高楼綺譚 連作 徳間書店 2002.05.31      
椿山課長の七日間 長編 朝日新聞社 2002.10.01      

※『きんぴか』は『きんぴか』1992年天山出版、『気分はピカレスク』1993年飛天出版、『ピカレスク英雄伝』1994年飛天出版の3冊をまとめたものです。光文社のカッパノベルスは全3巻。
※『極道放浪記』は1991年刊行の学習研究社『とられてたまるか!』を加筆・改題したものです。
※幻冬舎の文庫は全て幻冬舎アウトロー文庫です。
※1992年に『競馬の達人』という本を出しているようです。
※その他、多数が漫画化されています。

本

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日輪の遺産
講談社文庫 1997年7月15日第一刷
 何だか当時の浅田次郎の「照れ」みたいなモノを感じてしまった。
 重い時代背景、扱うテーマは非常に文学的、構成もよく考えられているのだが、この作品以前の浅田次郎のイメージを良くも悪くも引きずっているような気がする。その辺りに「照れ」を感じてしまう。そういった意味では多少半端ではあるのだが、それも『蒼穹の昴』を読んだ今となってはの話。恐かったのか、それともサービス精神旺盛な人なのか、は不明だが(ぼくは後者だと思うけど..)、マッカーサーをめぐる通訳・副官等の会話、金原老人と手帳 を預かってしまった二人の人物造型と彼らのやりとり、は多少脱線しながらも浅田次郎の面目躍如だと思う。

 巻末の「文庫版あとがき」によると、ユーモア・ピカレスクの痕跡は手直ししたかったようだが、そんなことないですよ>浅田さん。
 日米の文化(特に食文化)の違いをユーモアたっぷりに描写するくだりには大笑 いしてしまった。ああ、こういうことか。こういうくだりはたくさんあったが、余計なのかなぁ。。

  『鉄道員』で直木賞を取ってしまったが、正直言うと『日輪の遺産』〜 『蒼穹の昴』の傾向で取って欲しかった。ぼくだけだろうか?

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活動寫眞の女
双葉社 1997年7月25日第一刷
 なんと優しくなんと柔らかい語り口。 モノクロ映画の名品のごとき味わい。浅田次郎の古き良き時代と映画への憧憬が痛いほど伝わってくる。ついでにぼくが忘れかけていた映画への憧憬までもが呼び覚まされてしまった。

 『活動寫眞の女』を読み終えた深夜、矢も立てもたまらなくなった。『人情紙風船』のビデオを引っ張り出し、深夜2時までかかって見てしまったのだ。ビデオで申し訳ない。>辻さん。。
 確かにこのラストシーンは絶品。山中貞雄の寫眞は、ほとんどが空襲で焼失している。非常に残念。

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天国までの百マイル
朝日新聞社 1998年12月1日第一刷
 また泣いてしまった。それも滝のように涙。浅田次郎の本はいつもこうだ。術中にはまるものか、と普段にも増して頭を冷却して読む。
 正直言うと『鉄道員(ぽっぽや)』あたりからこの作業に少々疲れ、浅田次郎の本が苦痛になってきていた。食傷気味だったのだ。人間は泣けと言われても、簡単には泣けないものだ。根がへそまがりなものだから、これでもかこれでもか、とやられるとそっぽを向きたくなる。わかっているんだ。浅田次郎の術はわかっている。

 しかし、、この本では浅田次郎の術に見事にハマリまくってしまった。90ページを過ぎた辺り、藤本医師の100マイル発言あたりからあやしくなってきた。もう涙が止まらない。あとは涙涙。途中ちょっとたるみもあった。前半後半の落差について行けない部分もあった。が、これはメルヘンなのだ。応援歌と言っても良いかもしれない。今は、素直に浅田次郎に応援されたい気分なのだ。

 これだけ素直に読んで良かった、と思える本はめずらしい。本当にこの本を読んで良かった。心底そう思う。明日も頑張ろっと。。

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極道放浪記1殺られてたまるか
幻冬舎アウトロー文庫 1998年8月25日初版
極道放浪記2相棒への鎮魂歌 
幻冬舎アウトロー文庫 1998年12月25日初版
 ピスケンが出てくる。プリズンホテル(秋)が出てくる。。。。いまや浅田次郎ファンにとって定番となったキャラクター等が原型として登場する。極道3部作の残り『初等ヤクザの犯罪学教室』にはあの「天切り松」が出てくるらしい。オールスターだ。
 不遜ながら、浅田次郎といえば小説よりエッセイの方を買っている。もちろん小説も文句なくおもしろいのだが、現代の名文家の一人に数えるべき浅田次郎のエッセイはそれ以上におもしろいのだ。

 こんなこと書いて平気か、なんてことが次から次へ飛び出してくる。なんとも凄まじい。実体験に基づいてるんだろうけどなんともはや。。ぼくは、一人の人間の半生記として読んだ。しかしよくもまぁ、これだけ悪知恵が働くもんだなぁ。よくよく考えてみれば死ぬか生きるかなんだが妙に明るい。やっぱり名文家だ。
 それぞれの解説を梁石日と白川道が書いているが、これもまたおもしろい。特徴がよく出ている。お二人とも波乱万丈という共通点はあるようだが。。

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満天の星 勇気凛凛ルリの色
講談社 1999年1月25日 第一刷
 「週刊現代」の連載エッセイ「勇気凛凛ルリの色」の単行本第4弾。

 毎週ではなかったが、連載を楽しみにしていた。確か昨年、このホームページをはじめる直前の頃、駅でしばらくぶりに「週刊現代」を手にした。当然真っ先に開くのは「勇気凛凛ルリの色」。だが、無い。大抵、大橋巨泉さんのコラムの近くにあるのだが、それらしきページには別の読み物がある。目次を穴があくほど見た。やっぱり、無い。次ぎに探したのは、「作者病気に付き今週は休載」という謝罪文。それも無い。ない。翌週も買った。やっぱりない。で、やっと連載中止を納得した次第。とっても残念。それ以来「週刊現代」は買っていない。休載の経緯もこのエッセイ集の最終項で確認した。休載理由は11番ですね。それにしても残念。

 ぼくは浅田次郎さんのエッセイは小説よりおもしろいと思っている。この人の文章のうまさは軽めのエッセイで非常に際立つ。とにかくおもしろいのだ。この本も早朝の電車の中で含み笑いが止まらなくなり、涙を拭き拭き往生した。もちろん、笑いだけでなく怒りもある。とにかく、ストレートな喜怒哀楽表現が素直に楽しめるのだ。サービス精神旺盛な作者の姿勢が偲ばれて浅田ファンにはたまらないエッセイ集。浅田次郎さん未体験の方は、案外このエッセイから入るのもいいかもしれない。

 浅田さんがおっしゃる通り、この連載中4年間のブレイクぶりは記憶に残るだろう。ぼくが敬愛する作家で、リアルタイムでこれだけブレイクした作家は他には見当たらない。感慨深い。

 ところで、『中原の虹』早く脱稿してください>浅田さん。

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天切り松 闇がたり 第二巻 残侠
集英社 1999年9月20日 第一刷
 物語を紡ぐ職人、浅田次郎の真骨頂。不思議なリズムを持った小気味良いべらんめぇ口調が、脳内に残響を残しつつ幾度となくリフレインする。これは現代の講談だ。ご幼少のみぎりに公園で飴玉につられて見た紙芝居だ。現代の作家で、この手の人情話を書かせたら浅田次郎の右に出る者はいない、と断言してしまおう。一時、泣かせのテクニックが安直に陥ってしまい、作為的で嫌味すら感じたこともあったのだが、この作品群では見事に復活を果たしている。実に華麗な寸止めぶりである。空手十段の達人が放った寸止めがごとき荒業。顔に身体に鋭い風圧を感じさせながらも、まぎれもない寸止めなのである。寸止め作家の面目躍如だ・・・(^^;;)。

 ご存知無い方のために説明するが、「天切り」とは天井を切って侵入する泥棒手法のこと。実際に瓦などをはがし、鋸、ノミ他の七つ道具を手に天井を切って侵入するのである。泥棒手法の中でも、最高に華麗な荒業なのだ。その天切りの使い手だった松蔵。人呼んで「天切り松」。ちゃちな犯罪者が横行する現代に蘇った旧弊の大泥棒が、警視総監から大臣にまで請われて、犯罪防止と称し、泥棒話法の「闇がたり」を駆使して語る往時の大浪漫なのだ。

 前作(「天切り松 闇がたり」徳間書店刊〜集英社版では第一巻)のメンバーが顔を揃える。振袖おこんは相変わらず良いなぁ。前作の山県有朋から盗んだ金時計の話も良かったけど、こちらも勝るとも劣らない(花と錨)。他にも目細の安吉、黄不動の栄治、などなどオールスターキャスト。

 小政の登場する「残侠」「切れ緒の草鞋」(前後編)、目細の親分が登場する「目細の安吉」、百面相の書生常の「百面相の恋」、待ってました振袖おこんの「花と錨」、黄不動の栄治の「黄不動見参」、そして松蔵自身の「星の契り」「春のかたみに」の全8話が収録されている。どれもこれも粋でいなせな奴らが活き活きと描かれている。もうため息が出るほどだ。珠玉という言葉は、この作品集にこそふさわしい。
 
 この「天切り松」のシリーズは、まだまだ先が長そうだ。浅田さんの代表シリーズになるんだろうな。でも、後生だから質は落とさないで。ずっと寸止めでいてね>浅田さん。

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シェエラザード 上・下
講談社 1999年12月6日 第一刷
 自分では勝手に華麗なる寸止め作家と呼んでいる、敬愛する浅田次郎さんが1999年末に上梓した長編である。
 浅田さんといえば、ユーモア・ピカレスクから人情物、歴史ドラマに至るまでの広範な作風で知られる。この作品は、『日輪の遺産』から『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』と続き、今後の浅田さんのメインになると思われる歴史から題材を取った物語だ。

 太平洋航路に就航するはずだった豪華客船「弥勒丸」撃沈の謎。国際法で安全を保証されていたはずの弥勒丸は、民間人2000人を乗せてなぜ沈没させらればならなかったのか。海の男の心情を愛情豊かに謳いあげ、現在・過去と巧みに構成し物語を織り上げる。全編に溢れる悔恨と愛。感動作ではあるだろう。
 だが、はっきりいって謳いあげ過ぎ。作者が物語に酔いしれている。これはダメだと思う。残念ながら寸止め作家の美点は喪われている。これはもう寸止めどころか、読む者に美談を強引に押し付け、それ泣けやれ泣けの連続だ。読み終えたぼくは、全身が不快な痣だらけ。全編に溢れる善人の山。各ページから立ち上る強引なヒューマニズム。辟易した。
 妙にセンチメンタルな老人たち。み〜んな素直なおしゃべりばっかし。軽部と元恋人の大仰で反吐の出そうな恋愛劇。伝わらない。人生肯定は悪いことじゃないけど、浅田さんこれはやり過ぎですよ。全体的に力無い描写…。

 登場人物の年齢についての言及が何度も出てくるが、最後まで違和感につきまとわれた。冒頭いきなり軽部が1954年生まれで、日比野が1956年生まれと宋英明の言葉で明らかになる。ところが、下巻前半の日比野の台詞「東京オリンピックの年だった。俺は小学校の五年生で…」昭和39年−11歳=昭和28年=1953年だよね。ま、こんなのは、単純な校正のミスだろうけど、他にも微妙なズレが感じられて年代がうまく把握できない。そんな波紋が広がって全体が朧になる。構成の妙があざとく感じられる。偶然は神の技ではなく、物語上のご都合主義としか捉えられなくなる。

 そんなこんなで、敬愛する浅田次郎さんの作品では、よろしくない部類と断定してしまいましょう。繰り返しになるが、浅田さんの美点はギリギリの寸止めにあるのだ。あまりあからさまで強引な泣かせは慎まねば。……でも……、正直言いますと、三ヶ所で涙がでかかりました。ここまで貶したぼくでも。いやはや浅田さんて人はすごいのだ。よ〜そろォ〜。

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