マイクル・Z・リューイン |
1942年生まれ。 ネオハードボイルド最高の作家(私見) |
探偵 アルバート・サムスンとリーロイ・パウダー警部補の生みの親。『そして赤ん坊が落ちる』はサムスンの恋人アデルが主人公。 サムスン物とパウダー物では、物語の作り方が大きく異なる。サムスン物は捻りの効いた複雑なプロットが特徴で、時として強引さを伴う。一方パウダー物は、同時多発型(モジュラー型)の警察小説(最近で言えばフロスト警部物などと同じ)で、プロットもわりとスムーズ。どっちが好みかと聞かれたら、う〜ん。 とっつきはサムスン、パウダーとも初登場作からがいいよ。 |
A型の女 | Ask the Right Question 1971 | 石田善彦訳 | ハヤカワ文庫 | サムスン |
死の演出者 | The Way We Die Now 1973 | 石田善彦訳 | ハヤカワ文庫 | サムスン |
内なる敵 | The Enemies Within 1974 | 島田三蔵訳 | ハヤカワ文庫 | サムスン |
夜勤刑事 | Night Cover 1976 | 浜野サトル訳 | ハヤカワ文庫 | パウダー |
沈黙のセールスマン (4.0) | The Silent Salesman 1978 | 石田善彦訳 | ハヤカワ文庫 | サムスン |
表と裏 (3.0) | Outside in 1980 | 田口俊樹訳 | ポケミス | |
消えた女 (4.0) | Missing Woman 1981 | 石田善彦訳 | ハヤカワ文庫 | サムスン |
刑事の誇り | Hard Line 1982 | 田口俊樹訳 | ハヤカワ文庫 | パウダー |
季節の終り (4.5) | Out of Season 1984 | 石田善彦訳 | ハヤカワ文庫 | サムスン |
男たちの絆 | Late Payments 1986 | 田口俊樹訳 | ハヤカワ文庫 | パウダー |
そして赤ん坊が落ちる | And Baby Will Fall 1988 | 石田善彦訳 | ハヤカワ文庫 | アデル |
豹の呼ぶ声 | Called by a Panther 1991 | 石田善彦訳 | ハヤカワ文庫 | サムスン |
負け犬 | Underdog 1993 | 石田善彦訳 | ポケミス | モロ |
探偵家族 (2.5) | Family Business 1995 | 田口俊樹訳 | ポケミス | ルンギ |
のら犬ローヴァー町を行く | Rover's Tales | 田口俊樹訳 | 早川書房 |
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探偵アルバート・サムスン物では一番知られた作品。完成度でも1.2を争う仕上りとなっている。 しかし、このアルバート・サムスンって人はホント市井のお方でありますねぇ。依頼が来ない。だから貧乏。ビルは立替えを間近に控えていて立ち退きを要求されている....。ただ、絶望はしていない。物語の真ん中辺にミラー警部補との会話があるが、とっても印象的。「まわりの世界の出来事がすべて、筋のとおったものだとおもうというのか?」ミラー警部補に突っ込まれて、しばらく考えた後アルバート・サムスンは「YES」答える。「だから、おまえは失敗者なんだ」執拗にミラーは突っ込む。いいなぁ。。このあたりにハードボイルドたる所以があって、この姿勢だけでもシリーズを読み進める価値があるってもんだ。 サムスン物の、死体に遭遇しない、サムスンに感情移入し過ぎないように生活感をなるべく省いている、などの特徴を踏襲している。この物語ではもうひとつの特徴、重要な役柄で子供が登場する、が加わる。自分の娘なんだけどね。ラストでは笑ってしまった。ただ、娘の存在はどうなんでしょうね?? アルバートの普通らしさが一層強調されて、これはこれでいいのかもしれないけど......。 プロットが非常に複雑。ちょっと消化不良を起こしそうなほどに・・・・。あまりに説明の多い小説を読みすぎたから? プロットが複雑なハードボイルドといえば、我が 原りょうだけど、彼の場合は沢崎が神業的推理で白日のもとに晒すから、消化不良なんて起きた試しがないのだが。。 |
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不思議な魅力のある作品だ。ミステリとして読めば、決して出来の良い作品とはいえないと思う。ある作家の日常が描かれる。それに被さるのが、実際に起こった殺人事件とその作家が生みの苦しみのうちにひねり出しているフィクションだ。作家の描くハードボイルドな主人公と作者本人の相関関係や、作家の心理状態や、それこそ毎日節目節目で顔を合わせるであろう奥さんや、諸々の事柄に思わずニヤリとさせられる。プロットらしいプロットもなくて作家が入れ込む事件そのものは単純で見るべきものはないし、謎解き解決もなんとなく終わってしまって肩透かしだから、この作家の日常にこそ目を向けて読むべきなんでしょうね。 しかし、リューインという人はホントに会話がうまい。奥さんとの会話が多いんだけど、どのシーンでも唸るほどのうまさだ。一人娘を嫁がせたあとの熟年夫婦の機微が、一時的とは言え書けなくなった作家夫婦の機微が、痛いほど伝わってくる。絶品ですね。書けない、でも締め切りは迫る。当然の心理として、逃避をはかる。そんな状態の時に知り合いが殺される。ここぞとばかりに、その事件へ逃避を始める作家。作家の全てを知り尽くし、宥めたりすかしたりしながら尻を叩く奥さん。ほほえましいったらないのだ。この夫婦の会話を読むだけでもこの本を手に取る価値があるってもんだ。 ともかく、含み笑いの連続で楽しませてもらった。なるほど「表と裏」ね。う〜ん…リューインの野心作だったのか実験作だったのか……。作品群の中からみれば失敗作なんだろうけど、現在力を入れている(らしい)ルンギ探偵事務所物ライクなウィットに富んだユーモアは、当時からリューインのひとつの側面だったんだね。考えてみれば、この物語の知的なウィットに富んだ筆致は、サムスン物と少しは通じるところがあるかもしれない。ジグソーパズルの見つからなかった最後の1ピースを嵌め込んだような気分、といえば良いだろうか。 さて、訳者の巻末解説によれば、リューインは久々にサムスン物にとりかかるそうだ。これは楽しみ。その前に控えているのがルンギ探偵事務所物。これはあんまり期待していない。ところでパウダー物はもう書かないんでしょうか? 出版社の方々には、是非ともその辺のところを伺って欲しいですね。 |
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これはシリーズ屈指の傑作だ。 2転3転する後半部分に差し掛かった時は、続きを読みたくて読みたくて寸暇を惜しんで読んだ。
そして、アッ!と驚くぶったまげな犯人・・・・・・。この人が犯人ってちょっと反則っぽいんじゃない、などと感想を持たせる間もなく次ぎが・・・・・・。毎度お馴染み後半のアクションが派手に展開される。 しかも、今回のサムスンは行動範囲が非常に広い。 インディアナポリス、ナッシュビル!!、スプリングフィールド、メンフィス・・・まさに縦横無尽の大活躍ってとこかな。 ただひとつ気になるのが、プリシラという女性の存在。人間像がいまいちはっきりしないのだ。この女性の行動は物語りのキーだから、もうちょっと愛情ある証言などがあってもいいような気がするんだけど。 |
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何に力を入れて書いてるのか。家族関係だろうか? サムスンのシリーズでも家族は重要なファクターではあったと思う。血の絆をめぐる愛憎劇をワクワクしながら読ませてもらったことが幾度となくあった。でも、そういう家族関係がテーマではないようだ。はっきり言ってよくわからない。おもしろくなかった。正直言って。 派手さはないが着実かつ複雑なプロットで読ませたリューインはここにはいない。ひねりの効いたプロットではある。日常生活の細かな齟齬から物語を構築するさまはリューインならではと思わせる。加えて、会話の妙手リューインも健在なのだが、どうも食い足りない気がしてならない。どうしてだろう? ドラマがない? 物語が希薄なような気がする。ユーモアもいいが、ぼくはもっと切実なドラマを読みたい。『季節の終わり』や『消えた女』のような。。 家族群像なのだが、家族の書き分けも今ひとつじゃないだろうか。設定も今ひとつ。う〜ん。思わずうなってしまう。ダイヤモンド警視はご愛嬌か? いったい何故、読者に何を伝えたくてリューインはこれを書いたのだろう? 巻末の解説によるとルンギ物第2作も執筆中のようだから次も読んでは見るつもりだが。。。。『豹の呼ぶ声』あたりからリューインは変わってしまったと思うが、どうなんだろ? どうも歯切れが悪い>ぼく。。 |