ジェイムズ・エルロイ 1948年ロサンゼルス生まれ 

 1998年『アメリカン・タブロイド』でつまずいてしまった。最後まで読めなかった。『キラー・オン・ザ・ロード』も積ん読状態。エルロイを嫌いになったのかな? LA4部作でブレイクしたのだが、これが読後じわじわとつらくなってきた。でも、熱狂して読みつづけたのは事実だし、熱狂度はどの作家よりも熱かったかもしれない。ともかく四部作は暗黒小説の白眉。
 エルロイは読者を選ぶでしょう。誰にでも薦めることはできないな。ぼくはロイド・ホプキンズ シリーズからを薦める。いきなり『ブラック・ダリア』じゃなぁ……。それでもいいんだけど…。


レクイエム Brown's Requiem 1981 浜野サトル訳 1985.09.20 ハヤカワ文庫    
秘密捜査 Clandestine 1982 小泉喜美子訳 1984.08.31 ハヤカワ文庫      
血まみれの月 (4.5) Blood on The Moon 1984 小林宏明訳 1986.09.10 サンケイ文庫 1990.07.25 扶桑社ミステリー
ホプキンズの夜 Because The Night 1984 小林宏明訳 1987.03.10 サンケイ文庫 1990.07.25 扶桑社ミステリー
自殺の丘 (3.5) Suicide Hill 1986 小林宏明訳 1990.12.19 扶桑社ミステリー    
キラー・オン・ザ・ロード Killer on The Road 1986 小林宏明 1998.08.30 扶桑社ミステリー    
ブラック・ダリア The Black Dahlia 1987 吉野美恵子訳 1990.01.15 文藝春秋 1994.03.10 文春文庫
ビッグ・ノーウェア The Big Nowhere 1988 二宮馨訳 1993.11.25 文藝春秋 1998.11.30 文春文庫
LAコンフィデンシャル L.A.Confidential 1990 小林宏明訳 1995.10.15 文藝春秋 1997.11.10 文春文庫
ホワイト・ジャズ White Jazz 1992 佐々田雅子訳 1996.04.01 文藝春秋 1999.03.10 文春文庫 
ハリウッド・ノクターン Holly Wood Nocturnes 1994 田村義進訳 1997.01.20 文藝春秋    
アメリカン・タブロイド American Tabloid 1995 田村義進訳 1998.02.01 文藝春秋 2001.10.10 文春文庫 
わが母なる暗黒 My Dark Places   佐々田雅子訳 1999.07.20 文藝春秋    
クライム・ウェイヴ Crime Wave   田村義進訳 2000.07.20 文藝春秋    
アメリカン・デス・トリップ The Cold Six Thousand   田村義進訳 2000.09.15 文藝春秋    

※『血まみれの月』『ホプキンズの夜』『自殺の丘』はホプキンズ三部作と呼ばれている。
※『ブラック・ダリア』『ビッグ・ノーウェア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイト・ジャズ』は暗黒のLA四部作と呼ばれている。

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血まみれの月
扶桑社ミステリー 1990年7月25日 第一刷
 確かに似ている。
 エルロイの物真似−というマイクル・コナリーに対する酷評があるらしい。確かに、ホプキンズ3部作を知るとボッシュ・シリーズはホプキンズ3部作の腹違いの弟であるかのような印象を持ってしまう。似ている点は否定しないが、ぼくはどちらも異常な程の興奮で読むことが出来たから「物真似」などと言ってコナリーを酷評する気にはならない。ボッシュ・シリーズを先に読んだためだけではないと思う。

 エルロイには『ブラック・ダリア』からのLA四部作で入門したのだが、『血まみれの月』読了後「失敗した!!」と天を仰いでしまった。やはり発表順に読むべきだった。LA4部作は入門者にとってはあまりに過激で、読んでいる自分自身の暗い情念までも呼び覚まされそうな恐怖に慄きつつページを繰った。それは、過去に体験した読書の楽しみ方を根本から覆す程だった。

 そして、ホプキンズ三部作へ。その第一作『血まみれの月』一見無関係と思われるエピソードが、一点に凝縮していくさまは正に圧巻。ホプキンズの狂気が文学的とさえ思え、詩人に同化していくホプキンズに自分も同化しようと空しい努力を試みるが不能。言葉でしか理解できない同性愛者(潜在的)の心情の揺れを体温で理解するのは難しい。ましてや同性愛者でなく、同じトラウマを共有もしないぼくには殆ど不可能。正直言うとこの第四部「沈みゆく月」が性急に流れてしまったようでとても残念。詩人の独白もいらないと思う。

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自殺の丘
扶桑社ミステリー 1990年12月19日 第一刷
 「犯罪はなんとスリルがあることか」と独白し、自分は殺人者であると自らを冷徹に突き放すホプキンズ。アリスの冒険は単なる白昼夢で終わるが、ウサギについて穴をくだったままホプキンズの悪夢は覚めることを知らない。そして、自分と犯罪者の間に明確な線を引けないホプキンズは、またしても犯罪者に自分の影を見てしまう。

 ワッツ暴動での出来事を贖罪することによって、守られ歪められた彼の正義は破綻したのだろうか。「私には何も残っていない」とつぶやく警官の声はホプキンズの声そのものなのだろうか。

 登場人物のひとり、ドゥエイン・ライスがこんな言葉を吐く。
「娼婦と寝ると、すべての女が娼婦に見えてくる。ひとりの女を愛すと、すべての女がその女に見えてくる」………世の中すべてが思い込み。入れ込み。

 中庸を知らないエルロイの登場人物たちは、己の中に矛盾を抱えたまま思い込みを糧とし、斜眼帯をかけたかのように人生を駆け抜け、業苦を背負い業に沈む。

 人間の持つ弱さと一言で片づけてはいけない。
 我々こそがエルロイの登場人物かも知れないのだから。

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