ジェイムズ・クラムリー 1939年アメリカテキサス州生まれ。チャンドラー、ロスマクを継ぐ正統派ハードボイルド……かな?

 映画監督でいうならビクトル・エリセなみの寡作作家? 大酔っ払いの二人の探偵-ミロとシュグルー(スルー)のを擁す。『友よ、戦いの果てに』ではすれ違い? 『明日なき二人』ではこの二人が…。
 二人の探偵がそれぞれ登場する『酔いどれの誇り』『さらば甘き口づけ』あたりから読んでほしい。


我ひとり永遠に行進す One to Count Cadence 1969 植草郷士訳 東京書籍 1989.12.02
酔いどれの誇り The Wrong Case 1975 小鷹信光訳 早川書房 1984.09.15
さらば甘き口づけ The Last Good Kiss 1978 小泉喜美子訳 早川書房 1980.12
ダンシング・ベア Dancing Bear 1983 大久保寛訳 早川書房 1985.08.15
娼婦たち Whores 1988 大久保寛・松下祥子訳 早川書房 1993.04.30
友よ、戦いの果てに (3.0) The Mexican Tree Duck 1993 小鷹信光訳  早川書房 1996.07.20
明日なき二人 Bordersnakes 1996 小鷹信光訳 早川書房 1998.08.31


※『友よ、戦いの果てに』の巻末のリストを参考にしました。それによると『酔いどれの誇り』『さらば甘き口づけ』『ダンシング・ベア』は文庫化されています。
※『娼婦たち』は短編集です。

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友よ、戦いの果てに THE MEXICAN TREE DUCK ジェイムズ・クラムリー 小鷹信光訳
早川書房 1996年7月31日 初版発行
 「魂ではなく法律の言葉に正しく従う人間だけが、私たちのことを悪人だと考えるだろう」 これは作中のシュグルーの独白だが、これを違和感なく受けとめられるか、否か。犯罪者の言い訳としか聞こえないか、少しは共感できるか。このあたりが、ハードボイルドひいてはクライム・ノヴェルに心酔できるかどうかの第一関門だと思う。独白は更に続く。「近頃では私は、法律というのはドルの記号だと思うようになってきた。そして人間の魂はその亡霊なのだろうと」 クゥーッ!! 痺れるじゃないか! もちろん、この作品に限ったことではない。スカダーにしろ、ハリー・ボッシュにしろ、ボブ・リー・スワガーにしろ、多かれ少なかれアウトローなヒーローたちに共通する心情なのである。

 相変わらずシュグルーは己の魂に従い、まだ40代の後半のはずだから失礼な言い方になるが、老いてなお盛んなのだ。スカダーのようにうまく年輪を重ねていたかと思いきや、とんでもないおやぢなのである。だが、しかし、この人にはこの人なりに老いが忍び寄っている。ベトナム戦争のトラウマといえばハリー・ボッシュを思い出す。だが、シュグルーら老兵たちのはもっと渇いていて外向的だ。一見ハチャメチャに見える会話や行動からも痛みは充分に伝わってくるのだ。読みようによっては、仲間たちと共にシュグルーが仕掛けた最後(?)のおまつりともとれるのだが?

 正直言えば評価の分かれる作品だと思う。このプロットを訳者のように奔放ととるか、破綻しているととるか。ぼくはどちらかというと後者で、疑問が山積なのだ。凡庸な読解力しか持ち合わせていない読者には意味不明の事柄が多すぎたのである。本筋と贅肉の区別がつかなくなり、何度前後不覚に陥ったことか。スカダーもボッシュも一度は自分で始末をつけているからなあ。『さらば甘き口づけ』とは趣向が違うかな。

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