浦和レッズの幸福    大住良之
アスペクト 1998年3月13日 第一刷
 元々東京のチームだったサッカーチームが、Jリーグ開幕とともに浦和の地に舞い降り、地元に溶け込み、Jリーグでも有数(強さでないのが辛い……)の存在になるまでの紆余曲折を、さまざまな人々のインタビューで織り上げたノンフィクションである。

 この本は、レッズ・ファンのバイブルといっても過言ではない。スタジアムの外で繰り広げられたぼくらの知らなかった熱い戦いに胸が熱くなった。何度も何度も目頭が熱くなった。この本にはレッズの全てがつまっている。

 最後半部で、ちょっとタイコ持ち的ないやらしい面が見えてしまったのが残念。横山さんを持ち上げすぎだろう。サポーターからは不満タラタラな行き当たりばったりの施策しかできない無為無策のフロントを、ちょっとばかり美化し過ぎているように思う。それ以外は、何も言うことはない。これは買って手元に置くことにする。何度も何度も読み返したい。この本を読むことができて幸せだった。

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サッカー劇場へようこそ    湯浅健二
日韓スポーツ出版社 1997年6月5日 初版第一刷発行
 ワールドカップ中の土曜日、本を探しに出かけた図書館には「ワールドカップ・コーナー」が設けられていた。浦和レッズのファンになって今年で10年目だけど、そういえば、まともなサッカーの本を読んだことがなかった。ごくたまに、雑誌を読む程度。で、ワールドカップ関連、レッズ関連、戦術関連と合計7冊借り出した。その内の一冊である。

 大雑把にいうと、「サッカー観戦の入門書」ということになるかな。簡単な戦術やフォーメーションの説明などを、それぞれのポジションごとに説明している。例えば、「タメ」「スペース」「フェイント」「攻撃の起点」「ルックアップ」「オフサイド」「パス」「パス&ムーブ」「フリーランニング」「コンパクトな守備」 というようなサッカーでよく使われる言葉について丁寧に解説している。

 最後にはスタジアムでサッカーを観戦するときの心得みたいなことまで書いてある。初心者向けだから、ワールドカップでサッカーに興味を持って、スタジアムに足を運んでみようという方は読んでみるのも一興かもしれない。期待をこめて。

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生還    豊田充穂
マガジンハウス 2000年12月21日 第一刷発行
 これもまた、レッズファンのバイブル。浦和レッズが二部に降格してしまった20世紀最後の年2000年、J2のレッズのを追ったノンフィクション。ドラマチックな構成と丁寧な取材によって見事に構築された空間に、作者の思いとサポーターの思いと選手の思いが交錯する。泣ける。特にサポーターの声を拾った部分では、もう、泣けて泣けて……。たっぷりとサポーターの視点で語られるのがとても良い。これもまた重なる。

 著者は、さいたま市でデザイン事務所を経営するコピーライター&イラストレーターらしい。これが処女作のようで、なるほど処女作らしい、良い意味での気負いが感じられて好感が持てた。……なんて、余裕かましている場合じゃないんだよな。今年もまずい状況だもんな。こんな本を今まで読まずに、レッズファンを自称していたなんてちょっと情けない。これも買うことにした。何度も何度も読み返して糧にしたい。

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浦和レッズ至上主義!    山中伊知郎
風塵社 1998年11月10日 発行
 スキンヘッドのフリーライター山中伊知郎さんが、浦和の町に舞い降りた浦和レッズに惚れこんで、追いかける姿が綴られたレッズコラム集。古くは「アールズ・ラ・ボンバ」「Red Win」などのレッズ雑誌に掲載されたコラムの中から、1993年から1998年分が納められている。読むほどにレッズを愛する心情が痛いほど伝わってくる。

 「アールズ・ラ・ボンバ」……、この雑誌はぼくも愛読していた。いつのまにか、廃刊になってしまって残念だったが、レッズマニアを満足させてくれる情報満載の情報誌だった。ギド・ブッフバルトとウーベ・バインの加入を伝える号で、「レッズにふたりの神が舞い降りる」と伝えていたことが懐かしい。

 山中さんの文章は読みやすく、その上ファンならではの喜怒哀楽たっぷりで思わずニヤリの連続だ。薄れてはいるが紛れもなく共有した喜怒哀楽なので、妙な親近感を覚える。負けつづけだったあの頃。といっても、今もあまり変わっていないが……。今年こそ、とファンをヤキモキさせるレッズを語り尽くした本。そうか、この頃は、二部降格なんて夢にも思っていなかったんだよな。

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ロングパス    林信吾
新潮社 2000年7月15日 初版発行
 副題にあるとおり、サッカーの起源からプレミアリーグ創設までの、イングランドサッカーの歴史を紐解いたノンフィクションだ。イングランドサッカーといえば、縦一本のロングパスと、キック&ラッシュと呼ばれる雪崩れ込みのような戦術を組み合わせた体力サッカーガ主流だった。この本では、プレミアリーグの隆盛とともに、各国の血が導入されて伝統的戦術からの脱皮をはかろうとする姿を、サッカーという表面に見える部分だけでなく、政治や経済からも解き明かそうとする意欲的な作品である。

 底辺に大きく横たわるのは「伝統」だ。各国独自のサッカースタイルには国民性が大きく関わる、とよくいわれる。イングランドはその伝統を捨て去っての変質なのか否か。「伝統」とは当然サッカーに限ったことだけではない。通貨の統合や将来の政治的統合にまで目を向け、フーリガニズムに代表される不幸な歴史も踏まえた、骨太なイングランドサッカー論がとても興味深かった。「歴史」は「伝統」を育む。しかし、その「伝統」から脱皮を図らなければならないのも、また競争社会における歴史の必然なのかもしれない。

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5秒間のドラマ    湯浅健二
ゼスト 1998年11月20日 第一刷発行
 1998年フランスワールドカップの名勝負を題材に、「サッカーの勝負はボールを持っていないところ決まる」という湯浅さんの持論を、名勝負のポイントポイントでボールの動きと選手のフリーランニングを解説している。最近出た『サッカーを観る技術 スーパープレー5秒間のドラマ』の前編といえそうな内容。

 サイトのコラムも愛読しているけど、ライターとして板についてきたというかなんと言うか。「超速の……」とか「爆発的な……」などの、一見安易なんだけど湯浅さん独特の言い回しが麻薬のよう。一瞬の言葉にならない鋭いプレーを、とても解りやすく切り取って解説してくれていてとても楽しい。湯浅さんの本を読むと、フリーランニングの大切さがよく解る。足元にばっかりボールをもらいたがってはダメなのだ。

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レッズと浦和    山岡淳一郎
レッドダイヤモンズ後援会:論創社 1998年6月10日 初版発行
 浦和レッズが浦和市(さいたま市)に降り立つ経緯と、その後の展開をレッズ後援会側から探った本。少々生臭い話もうまくオブラートに包んで、ポーターズクラブとは別の後援会という組織を紐解いた。出版したのがレッズ後援会なのだからお手盛りなのは当然といえば当然。その分、内容が濃いからいいかな。

 レッズ・サポーターがバイブルのひとつに数える本、らしいが、ぼくには今ひとつピンと来なかった。静岡、広島とともに、有数のサッカー王国に数えられた埼玉・浦和の地にプロサッカーチームを呼ぼうという気概はわかるし、熱意もビンビン伝わってくる。しかし、あまりにお手盛り過ぎるような……。どんな立派なことを成しても、自ら進んで自慢するような手合いはどうも好きになれない。

 作者は今でこそ著作も多い知られたノンフィクション・ライターだ。しかし、この本のころは著作も少なかった。後援会の手厚いバックアップの中で、自らの視点を探ろうとした姿勢は買えるかな。それにしても、歯切れの悪さが気になってしまう一冊。

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